多発性硬化症

多発性硬化症(MS)とはどんな病気?

多発性硬化症(たはつせいこうかしょう、multiple sclerosis; MS)とは中枢性脱髄疾患の一つで、脳、脊髄、視神経などに病変が起こり、多彩な神経症状が再発と寛解を繰り返す病気です。 日本では特定疾患に認定されている指定難病です。

どのくらい患者さんがいるの?

日本での患者数は、人口10万人あたり3~5人ほどで、女性に多くみられます。全国で約5,000人、日本でも緯度が高くなるほど患者数が増えます(緯度効果)。約80%が15~50歳で発症するといわれています。ピークは30歳頃、家族性はごくわずかで約1%位です。

症状

ほとんどが急性に発症し、一週間以内にピークに達します。自然に改善することもあります。視神経、脊髄、大脳などの病巣により症状も異なりますが、視力障害、しびれ感、運動麻痺、歩行障害などが多く出現します。日本では視神経、脊髄の障害が多く現れます。

視神経の症状

視力の低下、視野の異常(中心視野が見えにくくなりやすい)、眼を動かすと眼球が痛いといった症状などがあります。両眼または片眼に生じ、急速に進行することや再発を繰り返すことがあります。

脊髄の症状

手足に運動麻痺やしびれ、感覚低下、排尿障害などが生じます。また、有痛性強直性痙攣(持続の短い痛みを伴い、手足が硬直する。)が生じることもあります。                       

脳の症状

物が二重に見える(複視)、言語障害、顔のしびれ、運動失調、精神症状、けいれん等。

経過

  • 急性に発症し再発・寛解を繰り返す型(最も多い):繰り返すたびにしびれや麻痺が治りにくくなることがあります。
  • 再発・寛解を繰り返し、その後、進行性に増悪する型
  • 最初から慢性進行性に増悪する型
  • 進行性の経過をたどりながら寛解が加わる型
  • 良性型多発性硬化症:発症後、10年経過しても歩行に制限のないタイプ。その後、症状が悪化することもあります。

治療法

急性期の治療

メチルプレドニゾン・パルス療法
ソルメドロールを500~1000mg点滴し、これを3日間(1クール)、1~2クール行います。この治療法は、ステロイド・パルス療法と呼ばれます。点滴で終わる場合もありますが、経口プレドニゾロンを引き続き投与し、少しずつ減らして中止することが多いです。

血漿交換療法
人工透析と同じように、多発性硬化症に関与している抗体を取り除く治療です。ステロイド・パルス療法が効かない方に行なわれることがあります。

再発予防・進行抑制の治療

インターフェロン・ベータ1b(ベタフェロン・アボネックス)
再発回数を減らす効果と、再発した際に症状を軽くする効果があります。ベタフェロンは1日おきに本人または家族が皮下注射します。アボネックスは週一回、筋肉注射を行います。副作用があり、よくみられるのが発熱、倦怠感、関節痛などの風邪症状です。解熱鎮痛剤を服用することで抑制します。また、注射部位の発赤、疼痛、硬結などの反応も見られます。冷やしてから注射する、注射を打つ部位のローテーションをする、針をしっかり打つ等で反応を減らすこともできます。

免疫抑制剤:エンドキサン(シクロフォスファミド)、イムラン(アザチオプリン)
これらは一定の効果があるものの副作用とのバランスを取ることが大事になります。副作用として、易感染性、骨髄抑制、肝・腎・胃腸障害、脱毛、発ガン性などがあります。経過を見ながら使用し、うまく薬とあえば経過は良好となります。

症状緩和の治療

多発性硬化症には、様々な症状があります。これらの症状に対して適切な対処を行うことが、病気とうまく付き合うことにもつながります。

排尿障害の治療
頻尿や尿意切迫、ときには尿失禁といった症状が現れる時には、ポラキス、バップフォー、ブラダロンなど、膀胱の筋肉の収縮を弱める作用のある薬が有効です。尿閉、排尿遅延といった尿を排出しにくい症状が現れる時は、ウブレチドなど、筋肉の収縮を高める薬が有効となります。お腹に手を当てて前かがみになって行う用手的排尿法や自分で尿道に管を入れる間欠的自己導尿などの対処法もあります。残尿により尿路感染症を起こさないようにすることが必要です。
しびれの治療
多発性硬化症でみられる、チクチク感、ヒリヒリ感、しびれなど痛みの反応を和らげる薬として、テグレトール、アレビアチン、ランドセン、トリプタノール、メキシチールといった治療薬があります。薬物療法のほかに、マッサージ、保温、冷却、ストレッチをするなどにより、痛みやしびれが緩和されることがあるようです。
足の筋肉のこわばりやつっぱりを和らげて歩きやすくするために、テルネリン、ミオナール、レオレサール、ダントリウムなどを服用します。副作用の主なものは脱力感、ふらつき、眠気などです。

療養のポイント

悪化・再発の因子として、感染症、過度の運動、疲労、体温の上昇、外傷、外科手術、精神的ストレス、出産、紫外線等があります。少しでも多発性硬化症が悪くならないような日常生活を心がけましょう。

免疫力を高める
栄養バランスの取れた食事:ビタミン、ミネラルをしっかり取ることが第一です。
  • 適度の運動:翌日に疲れを残さない程度にしましょう。
  • 十分な休養
  • 精神的ストレスをためない:多発性硬化症に限らず病気では免疫が低下するといわれています。

感染症を予防する

カゼ・インフルエンザ:冬期は部屋の乾燥、喉の冷えに注意しましょう。 尿路感染症:排尿障害が起こると現れやすいので特に注意しましょう。

環境を整える

適温

目にやさしい環境
目の悪い人は特に長時間のテレビやパソコン等の使用は抑える。モニターは目線が下がるよう低い位置におく、フィルターを取りつけるなどの配慮が必要です。
過度の日焼け防止
ある程度の紫外線は骨の成育に必要ですが、日焼けにより免疫のバランスを崩しますので予防が必要です。