重症筋無力症
重症筋無力症とは?
重症筋無力症とは、筋肉の力が弱くなり、目が開けづらい、疲れやすい、しゃべりにくいなどの症状があらわれる病気です。
日本の患者さんの男女比は、おおよそ1:2で女性に多く、男性では10歳以下と50歳代に、女性では10歳以下と30歳代に発症年齢のピークがあります。
まぶたが下がる・物が二重に見えるなど、目の周りの筋肉に症状があらわれる場合を眼筋型、全身に症状があらわれる場合を全身型といいます。
原因
重症筋無力症は、脳からの指令によって神経終末より遊離される情報伝達物質(アセチルコリン)の筋肉側の受け皿(アセチルコリン受容体)が、十分に機能できなくなることによっておこる病気です。
アセチルコリン受容体の働きを妨げる物質(抗アセチルコリン受容体抗体)が体内で作られて、指令が筋肉に伝わりにくくなることが原因とされています。
なぜこのような抗体が作られるかについての根本的な原因は、わかっていません。ただ、重症筋無力症の患者さんでは胸腺に異常がみられる場合があるため、胸腺が発症原因に関わっていると考えられています。
神経と筋肉の結合部
抗アセチルコリン受容体抗体:受容体を攻撃して壊したり、アセチルコリンが受容体に結合するのを邪魔します。
症状
目の周りの筋力低下
まぶたが下がる・物が二重に見えるなどの症状があらわれます。まぶたが下がっているために、周りの人から眠そうにみられる場合があります。
疲れやすい
普通にできていた日常生活が、疲れやすくて筋肉に力が入らなくなるため、とても困難になります。すぐに疲れてしまい、手足を動かしづらい・歩行が困難になるなどの症状がみられます。
ただし、筋肉を休めて安静にしていると筋力が回復してきます。
日内変動・日差変動
多くの患者さんで午前中は症状が軽く、夕方から夜にかけて悪くなります(日内変動)。
また日によって、症状が良くなったり悪くなったりの繰り返しを感じる患者さんもいます(日差変動)。
嚥下障害・構音障害、呼吸困難
食べ物をうまく飲み込めない、飲み込む時にむせたりします。
また、大きな声ではっきりと話すことが難しくなったり、声が鼻に抜けて思うように発音ができなくなります。
また、呼吸困難や息苦しさが出現することもあります。
治療
抗コリンエステラーゼ薬
内服薬で比較的簡単に使用することができ、筋力の改善に速効性があります。
多くの患者さんで効果がありますが、腹痛、下痢、吐き気、唾液が多くですぎるなどの副作用もみられます。
ステロイド薬
重症筋無力症の治療薬として多用されている薬です。
しかし、骨粗鬆症や糖尿病、高脂血症、中心性肥満、消化性潰瘍、にきび、満月様顔貌などの副作用があります。
免疫抑制薬(シクロスポリン、タクロリムス水和物)
免疫抑制作用により、抗アセチルコリン受容体抗体の産生を抑制し、重症筋無力症の症状を改善します。
また、ステロイド薬を服用している患者さんでは、シクロスポリンを服用することでステロイド薬の服用量を減らしたり、中止することができます。
この薬を安全に使用するために、病院で定期的に血液検査を受けることが大切です。
血液浄化療法
血液にある抗アセチルコリン受容体抗体を取り除きます。速効性がありますが、効果がみられるのは数週間と短く、他の治療法と組み合わせて使用する必要があります。
胸腺摘除術
重症筋無力症の患者さんの胸腺では、抗アセチルコリン受容体抗体の産生を促すTリンパ球が異常増殖していることがあります。手術によって胸腺を取り除き、症状を改善します。
クリーゼについて
重症筋無力症では、症状が急激に悪化して呼吸困難をおこす場合があり、この状態を「クリーゼ」と言います。
感染や過労などをきっかけとして引き起こされることが多く、緊急処置が必要となります。日ごろから睡眠をよくとり、無理のない規則的な生活を心がけて、予防に努めましょう。
クリーゼがおきてしまったら
すぐに救急車を呼びましょう。落ち着いて対処をすれば十分に間に合うので、患者さんとその家族の方は日ごろから気道確保などの対処法を学んでおきましょう。
クリーゼの治療
人工呼吸管理を施し、血液浄化療法を行います。治療効果は数日であらわれ、約3週間持続します。またクリーゼの治療とともに、免疫治療などの根治療法を行う必要があります。
クリーゼのきっかけを作らないために
日常生活における心がけ
毎日の生活の中で、動ける範囲で体を動かしながら、安静を心がけることが大切です。無理をせず適度に休息をとり、疲れを残さないように注意しましょう。
- 手洗い、うがいをまめに行い、風邪や感染症に気をつけましょう。
- 生理(月経)時は体調を崩しやすい時期です。体調管理を心がけましょう。