脊髄小脳変性症状

脊髄小脳変性症とは

脊髄小脳変性症(せきずいしょうのうへんせいしょう、英:Spinocerebellar Degeneration (SCD))とは、小脳および脳幹から脊髄にかけての神経細胞が徐々に破壊、消失していく病気で、運動失調を主症状とする神経変性疾患の総称です。
この病気を患った木藤亜也の日記を本にした『1リットルの涙』が2006年、210万部の売り上げを誇るロングセラーとなりました。また、同作品は映画化、テレビドラマ化されており、テレビドラマ版では、沢尻エリカが主演し、感情的な演技が視聴者に評価されました。

分類

原因からは、遺伝性のものと、孤発性(非遺伝性)のものに大きく分けられます。

遺伝性

常染色体優勢遺伝
わが国では常染色体優性遺伝(ご両親のいずれかに同じ症状がある)が多い。

  • 脊髄小脳失調症1型(SCA1)
  • 脊髄小脳失調症2型(SCA2)
  • 脊髄小脳失調症3型(SCA3、通称:マシャド・ジョセフ病)
  • 脊髄小脳失調症6型(SCA6) 2009年現在で31型まで発見されています。
  • 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)
常染色体劣性遺伝
(兄弟に同じ症状の方はいるが、両親には同じ症状の方がいない)

  • フリードライヒ失調症(FRDA)
  • ビタミンE単独欠乏性失調症(AVED)
  • 眼球運動失行と低アルブミン血症を伴う早発性小脳失調症(EOAH)

孤発性

多系統萎縮症(オリーブ橋小脳萎縮症)

  • 皮質性小脳萎縮症

患者さんはどのくらいいるの?

本邦の脊髄小脳変性症の頻度は10万人当たり約7-10人程度と考えられます。そのうち約70%は孤発性すなわち非遺伝性症例で,30%が遺伝性です。孤発性の中で、その多くはオリーブ橋小脳萎縮症です。

症状

失調症状

運動失調は、立ったときに不安定でふらつく、片足立ちが出来ない、歩行時にふらつく、平均台の上を歩くようにして歩けない等の体幹(体の中心部)のバランスが不安定になる症状があります。手の動作時の震え、思ったように字が書けない、動かせないという四肢の失調症状もあります。また、呂律が回らない、音と音がつながってしまうなどの言葉の障害も認めます。

パーキンソ様症状

病型によっては、運動失調症状に加えて、四肢の関節が固くなったり、動きが遅くなる、表情に乏しくなるなどのパーキンソ様徴候を認めます。

自律神経症状

立ったときに目の前が暗くなる(起立性低血圧)、ひどいときは気を失う(失神)、残尿感がある、尿がでにくい、何回もトイレに行きたくなる等の自律神経症状などを認める場合もあります。

その他

病型によって、筋肉のやせ、足のつっぱり感などの症状もあります。これらの症状の組み合わせは病型によって異なります。

治療法

小脳性運動失調症状に対して

TRH (thyrotropin releasing hormone) の静注療法、平成12年より同薬剤の経口剤(タルチレリン水和物)が提供されるようになっています。本薬剤は臨床治験において、小脳症状の進み方を遅くする効果が示されています。

バーキンソニズムに対して

L-DOPA合剤が初期には有効なことがあります。

自律神経系に対しては

起立性低血圧に対しては、交感神経作動薬(アメジニウム、ミドドリン、ドロキシドーパ)などが用いられます。しかし、本症では起立性低血圧と同時に臥位時の高血圧を伴うことも多く薬物治療に際して注意が必要です。下肢の弾性ストッキングや弾性包帯も起立性低血圧に対しては有効ですが、夏季などは不快感を伴う場合もあります。
排尿障害に関しては、頻尿、排尿困難など、症状に応じて、抗コリン剤、コリン作動薬、α遮断薬などを適宜用います。自己導尿を要することもあります。

症状の克服のため

例えば、ゆっくりしゃべるよう心がける。また歩行については左右に足を開いて歩く、少し重い靴を利用する(重量負荷型靴装具というものもあります)。 上肢の振るえによる動作障害については、肘を机に固定して手の作業をするようにしたり、あるいは一方の手を他の手に添えて固定するなどの工夫をします。各病型によって、合併症状や、進行に際しての問題点は異なります。専門医とよく相談の上対応を考えていく必要があります。 福祉制度では、特定疾患、40歳以上65歳未満では介護保険の特定疾病、障害者年金等の制度がありますので、主治医の先生とよくご相談下さい。

経過

一般的には脊髄小脳変性症の症状は徐々に出現し、ゆっくりと進行しますが、各病型で異なり一概にはいえません。特に遺伝性では同じ病型であっても、大きく異なる場合が多いので、臨床型、遺伝型を重ねて考える必要があります。孤発性では、純粋に小脳症状のみで経過する皮質性小脳萎縮症は、その進行は遅く高齢まで自立できるかたが多い傾向にあります。一方、多系統萎縮症(オリーブ橋小脳萎縮症)は、進行がはやく、約半数が発症後約8年で補助具なしでの歩行は難しくなります。